コラムCOLUMN
つい先日、介護施設にいらっしゃる看護師さんから、「漢方薬ってすごいですね」という声を聞く機会がありました。
普段、なかなか漢方薬を用いた治療に遭遇することがない、施設や医療関係者の方々にとっては、漢方薬で入所者の症状や不安が和らいでいく姿を見ることが、ちょっとした驚きでもあり、不思議だったのかもしれません。
漢方薬の一般的なイメージ
漢方に興味があったり、病院や薬局で薦められたりして、何度か飲んだことがある人以外、漢方薬には以下のようなイメージを持つ方が多いようです。
◆即効性がなく、長い期間を通して飲まないと、なかなか効いてこない
◆やさしく、穏やかに効き目を発揮する感じがして、副作用が少なそう。
◆独特のニオイがあって飲みにくそう。苦い、臭い、おいしくない。
◆それぞれの効能書きにある細かい症状に合わせ、選んで使う、やや分かりづらい薬。
などが、まだその効果をきちんと体感したことがない方々の、ごく一般的な漢方薬への印象のようです。
その主な特徴や働きは
漢方薬の実際の、主な特徴やその働きに関しては、テレビやネットなどの情報で、すでに知られているところも多いかとは思いますが、特筆すべき部分としては、以下のようなことがあげられます。
◆この病名にはこの薬ではなく、人それぞれの異なる体質や原因に合わせ、使える薬である。
◆体に不足した栄養物質を補うものも、多く入っている。(ここは、西洋薬とかなり異なる)
漢方薬には、西洋薬と同じように、症状の原因となるものを解毒・排出する働きを持つものもありますが、体に不足している栄養物質を生薬として含み、それを補うことで健康状態を立て直していく働きがあるものも多く存在します。
そして実際には、上記のイメージにあるような、長く飲まないと効かないものばかりではなく、急な症状に素早く効果を発揮するものもたくさんあります。
漢方薬で最も有名な葛根湯が、風邪気味の時すぐに服用すると、即効性が実感できることなどからも、そのことが見てとれます。
さらに、漢方や東洋医学の概念には、「異病同治(いびょうどうち)」という言葉があって、一つの漢方薬が、その効能書きや添付文書に記入してあることにとどまらず、様々な異なる病気や症状に応用されることも、多々あります。
病院では検査をしても特に異常がなく、これといって何も処置をしてもらえない、なかなか分かってもらえない、つらい不調や症状などに、漢方薬は功を奏してくれます。
なぜ漢方薬で高齢者の症状が緩和できたのか
さて、話は冒頭の話題に戻りますが、なぜ漢方薬で、高齢者の不安や、気になる症状が緩和できたのでしょうか。
世の中にある様々な医薬品の、添付文書や、箱の裏書などには、高齢者に対する注意書きらしきものが、いたる所に記載されています。
高齢者は、一般的に65歳以上の人を指しており、代謝などの生理機能がかなり低下してきているため、薬が効き過ぎてしまったり、薬同士の相互作用を起こしやすくなるので、その投与には十分な配慮と注意が必要とされています。
加えて、老化の進行で臓器や器官の働きも徐々に衰えていくため、様々な疾患が起こりやすくなり、色んな病院にかかって薬を出される機会が増えてきます。
そのため、高齢者には、薬同士による副作用の増強や、飲み忘れ、飲み間違い等のリスクも高まり、それによるふらつきや転倒、動悸、しびれ、物忘れなどの症状も懸念されるようになってきます。
漢方薬は、こうした高齢者の様々な症状の軽減や緩和の効果を持ち合わせているため、他の薬の量の削減が期待でき、検査ではあらわれにくい不調や、西洋薬では難しい高齢者の冷えや乾燥の改善にも、大いにその役目を果たしてくれます。
それゆえ最近では、漢方薬を積極的に治療に取り入れている病院も増えてきています。
今回、「漢方薬ってすごいですね」という声を、施設の看護師さんに頂いたケースは、以下のような、漢方薬による変化や、その有用性がみられた事例からでした。
90代の男性に、入所当初から、専属の先生よりいくつかの薬の服用の提案があったのですが、てんかんや心不全の症状もあり、体力もかなり衰え厳しい状況が続いていたので、先生に了解を得て、こちらからお願いして、数種類の漢方薬を加減し飲んでもらい、出来るだけ他の薬の投与を控えて頂きました。
その結果、時々せん妄やてんかんの症状はあるものの、食欲も安定し、冷えやむくみなども和らいで、たまには自分からみんなが集まるロビーに出向いてくれるような変化も見られはじめました。
看護師さんからは、こうした持病がある90代が、後から入所した80代の方々と比べても、現状が維持できていたり、明らかに体力や認知力の低下が緩やかな部分を見て、その効果に驚き、思わず漢方薬ってすごいという言葉が出たようです。
それぞれの薬の上手な使い方を
漢方薬等にある高齢者への注意書きは、一概に使用できないという事ばかりを書いているのではなく、医師や薬剤師や登録販売者に相談の上、それぞれの体質や服用中の薬との飲み合わせをきちんと把握し、十分に留意し投与することも意図して記載されています。
現に、漢方薬全体の6割以上が、高齢者に利用されているという事実もあります。
先にも述べたように、漢方薬は高齢者にとって、「加齢により生じる様々な症状を緩和し、薬の量の削減が期待できる」という側面を持ち合わせています。
しかしながら、全ての症状に漢方薬が効果的なわけではなく、当然、西洋薬でなければ対処できない症状も世の中にはたくさんありますし、漢方薬にも、使い方によっては様々な副作用の可能性があります。
体の状態や症状に合わせ、西洋薬と上手に使い分け、リスクの高い薬の服用を少しでも減らせるようになることが、漢方薬の理想的な服用法ではないかと思われます。
これからの高齢化社会における、さらなる漢方薬の有用性に期待しています。
★カウンセリングについて★
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(株) 大賀薬局ライフストリーム 漢方カウンセリング (担当) 梅川
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