コラムCOLUMN
3月は春の訪れを感じる月でもあり、また、ひなまつりや国際女性デーなど女性にまつわるイベントが数多く開催される月でもあります。
世の中には普段のお仕事以外にも、家事や育児なども含め、男性以上に忙しい日々を過ごしておられる女性はたくさんいらっしゃると思います。そんな女性のデリケートな体は、毎月の生理(月経)の周期や、女性ホルモンの分泌のちょっとした乱れによって不調をきたす機会が多くなってしまいます。
女性ホルモンのバランスは、ストレスや環境の変化、生活習慣などにとても影響されやすく、その分泌量も思春期や妊娠・出産期、更年期といった年代によってかなり異なってきます。
そこで今回は、女性特有のつらい症状やホルモンバランスの乱れに効果的な「漢方薬」の代表的なものや、その使い分けについていくつか紹介してみたいと思います。
生理(月経)痛
はじめは最も悩みが多い、生理痛や生理不順によく使われる漢方薬に関してです。
生理痛は主に、子宮筋腫等で器質的に病院治療が必要な痛みを除き、子宮やその周辺の血流が悪くなり滞った状態(瘀血)、そこに血や栄養物質が不足した状態(血虚)、その他冷えやストレスによる、気やエネルギーの滞りなどが原因で起こるものと漢方では考えます。
そうした概念のもと、まずは生理の前半の痛みや生理前からの痛みに対してよく出されている処方例をあげてみたいと思います。
◆『桂枝茯苓丸』
血行不良による瘀血で生じた痛みで、始めから強い下腹部痛を一定のところで感じ、頭痛や腰痛を伴うことが多く、経血に血塊が混じるタイプに使用します。さらにイライラやのぼせ感が目立ち、便秘があれば「桃核承気湯」などがよいと思います。
◆『加味逍遥散』
ストレスや不安感による気の滞りが経血の停滞を招き起こった痛みで、下腹部や胸に張った感じがあり、やや生理不順で経血量が一定しないタイプに使います。加えて下腹部痛に熱感を伴い、経血が粘っこく悪臭があって、濃く黄色味を帯びたおりものがあれば、「竜胆瀉肝湯」などを併用するとよいでしょう。
◆『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』
下腹部が冷えてひきつるような痛みで、手足も冷えて頭痛も伴いやすいですが、温めることでだいぶ楽になるタイプで、生理の周期は遅れがちな人に使います。冷えや痛みがさらに進むと、状態に応じて「五積散」や「温経湯」を使うとよいでしょう。
続いて生理の後半の痛みや、終わり前後の痛みに対して出される処方例をあげてみます。
◆『当帰芍薬散』
血や栄養物質が不足した血虚の状態で起こる痛みで、生理は比較的遅れがちになり、経血は色が淡くやや量が少ないタイプに使用します。もし、すぐに疲れて元気がない胃弱体質なら「十全大補湯」や「人参養栄湯」になります。
◆『杞菊地黄丸』
潤い不足で乾燥したり体にほてり感があり、おりものも少なく、生理期間が短くてやや遅れやすく、生理後半から生理後にかけて下腹部が痛むタイプに使います。逆に、加齢や虚弱で手足に冷えた感じがあり、元気がなければ「八味地黄丸」を使います。
更年期障害
次に、2番目に悩みが多い更年期障害によく使われる漢方薬に関してです。
〝更年期″とは、一般的に閉経をはさんだ前後5年の計10年間を指しており、〝更年期障害″は、その更年期にあらわれる、精神的および身体的な症状や異常のことをいいます。こうした症状の感じ方はその人それぞれの体質によって千差万別で、更年期と気づかずにこの時期を過ごしてしまう人もいます。
女性は閉経が近づくにつれて排卵も徐々になくなって行き、脳からの指令で卵巣から分泌される女性ホルモンの量も、その機能の低下によって大きく減少してしまいます。このことで、今までの体内のホルモンバランスに乱れが生じて脳と体のバランスも崩れがちになり、更年期障害といわれる様々な症状があらわれ出します。
処方例としては、そのたくさんの症状や体質に合わせて数多くのものが存在します。
更年期障害の最も有名な処方といえば、上記の生理痛のところでも紹介した「加味逍遥散」「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」の〝婦人科三大処方″が最初にあげられるのですが、ここではその他にもよく使われる漢方薬を少しだけ紹介したいと思います。
◆『柴胡加竜骨牡蛎湯』
イライラ・動悸・不安感や、一つのことが気になりだすと眠れないなど、更年期の内分泌系の乱れで自律神経の興奮・過敏状態が目立つ時に使用します。これは更年期の際に、体に起こる症状よりも精神的な症状のほうがひどいタイプの人になります。同様に神経的な症状が目立つ中で、急に熱くなり汗をかいたかと思えば、すぐに体が冷え寒気を感じてしまう、虚弱で冷えて軟便ぎみの人は「柴胡桂枝乾姜湯」のほうが適しています。
◆『知柏地黄丸』
加齢による老化の進行で、体の栄養物質や体液などの水分が減少して、熱や乾燥を生じてホットフラッシュ・のぼせ・ほてり・口渇などの症状が起きるタイプに使います。ホルモンの分泌や代謝を促す効果のある「六味丸」に、潤しながら清熱をするために知母と黄柏を加えた処方です。逆に手足が冷え、更年期の諸症状が慢性化傾向にあり、トイレが近くなり、下半身がむくみやすければ、同じ六味丸ベースの「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」をおすすめします。
◆『温経湯』
閉経した人には女性ホルモンがうまく分泌できないところに作用して、生理に異常がある人にはその周期を回復させる効果があります。血や栄養を補い巡りをよくします。冷え症でお腹が冷えるのに、手足がほてり肌も乾燥する、寒熱が入り交じったタイプに使います。処方名の〝温経″とは、下腹部を温め、月経の異常を調節するという意味からきたそうです。
不正出血
最後は、生理の時以外の不正出血によく使われる漢方薬に関してです。
不正出血は、病院での治療を要する器質的な出血を除けば、機能性不正出血として漢方薬による治療の効果が期待できます。おりものに血が混じる程度のものから、少量の出血がポタポタ続くもの、そして量が多い出血まで、その頻度や期間も様々です。
◆『芎帰膠艾湯』
下半身を中心とした出血を伴う症状に幅広く処方されるファーストチョイスの処方です。虚弱体質で貧血ぎみ、生理後も淡く薄い色の経血がだらだらと続くタイプに使用します。ベースとなる四物湯で血を補いながら、それが漏れないように艾葉と阿膠で止血します。
◆『温清飲』
のぼせやイライラ、または辛い物や脂っこい物の過食などで、血が熱を持ったことにより、子宮や卵巣が炎症反応を起こし、濃い色でやや多い出血があるタイプに使います。清熱・止血をしながら補血をします。「田七人参」と併用することでその効果も上がります。
◆『冠心逐瘀丹』
血流が悪くなって瘀血が生じ、生理時に子宮内の一部の古い血が、すべて排出されずに残ってしまい、しばらくたってから血塊を伴い押し出されるように出血するタイプに使います。血が詰まって起きた出血を駆瘀血剤で改善します。落ち着けば「桂枝茯苓丸」に変更します。
女性特有の症状改善は漢方の得意分野
以上にあげた内容の他にも、女性にはホルモンバランスの乱れがきっかけで起こる〝不定愁訴″と呼ばれる様々な症状が、日頃の悩みの種として数多く存在しています。もしも、ずっと気になっている症状を抱えているようであれば、まずは何よりも、婦人科などの病院をきちんと受診することが最優先です。女性ホルモンの数値や、器質的な異常がないかの検査をしっかりと行ってもらいましょう。
病院で検査をしても何も異常も見つからない、これといった治療の薬も出ない、つらい症状を病気として診断してもらえない....。そんな時こそ漢方薬は大いに効果を発揮します。
女性の様々な不定愁訴の症状の緩和や改善は漢方の得意分野です。漢方薬はホルモン剤治療のように、補填して症状を抑えたり、それによる子宮がんのリスクが高まる心配もありませんし、少しずつその症状を緩和しながら改善へと導いてくれます。
婦人科疾患における細かい漢方薬の選定は、先生によってそれぞれの見立てがかなり異なってくるかもしれませんが、こうして紹介させて頂いた漢方薬が、悩みを少しでも和らげるための手助けになれば、また、参考になれば嬉しく思います。
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