コラムCOLUMN
一昨年、九州中医薬研究会の先生方と一緒に、すぐお隣の国である韓国の漢方薬や生薬事情を見学に行く機会がありました。
韓国では、日本の漢方にあたるものを「韓方」と呼んでいます。
「韓方」は日本の漢方医学と同じく、中国の中医学の伝来から独自の発展を遂げたものです。
韓国国内において、東洋医学は日本以上に盛んで、日々の生活のいたる所に根付いています。
それぞれの街の市場や商店街には、必ずと言っていいほど、様々な生薬を店頭で販売するお店が、軒を連ねて点在しているのを目にします。
日本のスーパーなどでは、なかなかすぐに手に入らない生薬の数々が、いつでも手軽に購入できて、毎日の家庭料理の材料の一部などに使用されています。
日本でも有名な高麗人参や韓国料理はもちろん、こんな飲食店のメニューまで
日本でも馴染みの深い、やや高級なイメージがある「高麗人参」も、現地では子供からお年寄りまで、幅広い世代に薬用・食用の生薬として頻繁に愛用されています。
因みに東洋医学には〝人参七効″という言葉があり、高麗人参には「気力を向上し疲労回復」「血を造血・浄化し脈を正す」「自律神経の調節」「潤いを保ち新陳代謝を促進」「呼吸機能を保ち喘息を治す」「胃腸を整え下痢を止める」「解毒を高め免疫向上」などの七つの効果があると言われており、そのことから、最近の韓国では、絶対に体調を崩せない受験生の必須アイテムにもなっているそうです。
また韓国では普段の食事として、日本でも有名になった〝参鶏湯(サムゲタン)″などにも、高麗人参・ナツメ・桔梗といった生薬の食材が、ごく普通に入っていますし、一般の飲食店の中には、日本の観光客に向けて〝東洋医学○○″と訳して、お店のメニューに掲載されている料理もたくさん存在しています。
東洋医学の考えに基づいた、スーパーフード〝禅食(ソンシク)
それから韓国の人たちが、薬と食物を同じ源(みなもと)として捉えた韓方の「薬食同源」の考えに基づいて、暮らしの中に取り入れている健康食品に「生食(センシク)」や「禅食(ソンシク)」といったものがあります。
「生食(センシク)」は野菜・果物・海藻などの数十種類の原材料を、生のまま凍結乾燥させて粉状にしたもので、栄養価が加熱の影響を受けずにそのまま効率よく吸収できる、〝栄養補助食品″といった位置づけで人々に浸透しています。
一方「禅食(ソンシク)」は、数十種類の穀物・根菜類・一部の生薬などを、高温で加熱乾燥して粉末状にしたもので、もともとは韓国でお坊さんが修行の途中で栄養補給のために飲み始めたことから「お坊さんの食事=禅食」と名がついたそうです。
今では、ダイエット時の置き換え食や、一人一人の健康状態や悩みに合わせた〝オーダーメイド禅食″として広く知られるようになっています。
生薬を用いた外治的な民間療法のよもぎ蒸し
さらに韓国には、よもぎを主とした生薬を煎じた蒸気を、下半身を中心に体全体に浴びて吸収させる「よもぎ蒸し」という、昔からの誰もが知っている民間療法があります。
最近では日本でも、韓流ブームにのってその評判が伝わり、専用の美容サロンから病院や薬局に至るまで、様々な所でその施術が受けられるようになりました。
よもぎは、別名で艾葉(ガイヨウ)という生薬で、都会の道端やビルのすき間など、どこででも自生ができる強い生命力を感じる多年草の一種です。
その生薬としての効能・効果は、温熱血行促進、止血造血効果、利尿デトックス作用、消炎鎮痛、整腸、殺菌除菌、ホルモンバランス改善などなど、万能薬的に多岐にわたり、よもぎの葉の裏の細かい綿毛は「もぐさ」としてお灸にも使われています。
このよもぎを中心に、それぞれの体質に合わせていくつかの生薬を加えた「よもぎ蒸し」は、女性の冷え性・生理痛・更年期障害や美肌・むくみ改善などはもちろんのこと、男性の前立腺肥大や肛門疾患、腰痛などといった症状にもたいへん効果的なんです。
また、韓国には普通の病院とほぼ同じくらい、韓方の医院があって、日本では一部が保険適用外の鍼灸なども、保険の範囲で行うことが可能です。
日々の健康をサポートする漢方的理念
すぐ近くには、たくさんの生薬や東洋医学の意味を理解して、暮らしの中に取り入れている人たちがいます。
そういえば、韓国の国旗自体も、真ん中には赤と青で彩られた陰陽のマークが、そしてその周りを取り囲む四方には、易学の八卦の意味を持つ記号が印されていて、東洋医学の思想がベースにあることがよくわかります。
日本の「漢方」は、まだまだ未病対策といったところが主流であるのに対して、韓国の「韓方」は、誰もが手軽に体のメンテナンスを行うことができる、とても身近な存在のようです。
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